大脳皮質基底核変性症|排尿障害(頻尿)




大脳皮質基底核変性症|排尿障害(頻尿)

このページでは大脳皮質基底核変性症を患う母の闘病記、排尿障害(頻尿)について記録しています。


・難病情報センター:大脳皮質基底核変性症とは<外部リンク>

ここ↑から引用すると「CBD(大脳皮質基底核変性症)の臨床像は極めて多彩であることが明らかになった。」と記載があります。


・通院先の主治医に「頻尿」の症状を相談した際にこんな回答をもらいました。

この病気は患者数が少ないので統計的にこうなるとは言えないし、人によって症状が様々だということはわかっています。


・「パーキンソン症状(筋肉の硬さ、運動の遅さ、歩行障害など)と大脳皮質症状(手が思うように使えない、動作がぎこちないなど)が同時にみられる病気です。身体の左右のどちらか一方に症状が強いのが特徴ですが、典型的な症状に乏しく、診断が難しい場合が少なくありません。」引用:難病情報センター:大脳皮質基底核変性症とは<外部リンク>

このように大脳皮質基底核変性症は大脳皮質症候とパーキンソン症候が同時に現れる病気だということはわかっているものの、これ以外の症状、例えば排泄障害(頻尿)は「この病気から来る症状だ」とは言い難いということを主治医からも言われていました。

排尿障害(頻尿)は、母にとって、そして母の生活にとって、大きな悩みのひとつでした。
通院先の主治医に幾度か相談しても「この大脳皮質基底核変性症の症状からきているとは言い難い」と言われていたので、私が母の代わりに施設へ病気の説明をする際に「頻尿は大脳皮質基底核変性症の症状です」と言いきれなかったからです。



1.大脳皮質基底核変性症(CBD)の排尿障害は従来ほとんど知られていなかった

大脳皮質基底核変性症の排尿障害はほとんど知られていなかったけれども、過活動膀胱が多くに見られたという研究結果が発表されていました。

「CBD の排尿障害は従来ほとんど知られていなかったが,最近の研究では決して稀でない.Sakakibara ら 1)の 10 名の報告では,80%の患者に下部尿路症状がみられた.過活動膀胱(overactive bladder, OAB,尿意切迫・頻尿のこと)が多く,切迫性尿失禁が 60%であった.これらの頻度は,PD と同等以上と考えられている」 大脳皮質基底核変性症(CBD)診療マニュアル 2022 <外部リンク>p.53より引用

これを見つけたとき、「やっぱり母のあの異常なほどのトイレに行きたいという気持ちは病気のせいだったんだ」と思いました。

現在はバルーンカテーテルのためトイレに行きたいという気持ちはなくなってしまいました。
母の「トイレに行きたい」という気持ちがなくなったということは、
トイレに行くために人の手助けを必要としない
ということです。

つまり

  • ナースコール頻回減少

  • 転倒するリスク軽減

  • 排泄という人間が生きていく上での基本欲求、行為の喪失

  • 尊厳の喪失

になります。

母の場合、大脳皮質基底核変性症からくる症状(右側に強く出る筋固縮や姿勢保持障害など)で転倒を繰り返していたので、トイレに行きたい欲求と転倒リスクを常に天秤にかけ悩んできました。

特に「水分の取りすぎのわがままでトイレに頻繁に行きたい」ではなく、「病気の症状のひとつとしてトイレに頻繁に行きたい」と思ってもらえたら母も私も救われたのかもしれません。

2.母の代弁者として

私が母の介護をしてきた中で一番意識して努めていることは「代弁者を務める」ことです。
「代弁者」は最近「アドボケーター(advocater)」という言葉でよく見かけます。
私の場合は世の中で使われている「アドボケーター」にどこか似ているかもしれませんが、中立的立場ではなく母がうまく伝えられないことや、稀な難病の症状を伝えて母のことを良く知ってもらうことを意識しています。

例えば、通院から戻ると先生から教えてもらったことを母と一緒に施設側に伝えます。
うまく言葉にできないときは私がその意図を汲んで看護師さんや介護士さんに伝えます。
看護師さんや介護士さんが母の言葉をうまく聞き取れないときには私が間に入ることで、すぐに解決しますし、誤解にならないことが多いからです。

車椅子に座っていても「転ぶ」とよく母が口にしていたとき、固縮している右手の置き場所、固縮しかけている右足の置き場所を工夫することで解決することができることも伝えました。
私から見ても母は車椅子にうまく座っていて転びそうにはみえないのですが母には大脳皮質基底核変性症という難病の影響で不安定さを訴えていることを伝えました。
母から聞き出し私でもわかる表現は「高い脚立の上で片足立ちをしているようなくらい不安定で怖い」です。

排泄障害(頻尿)のとき、母がわがままで(例えば、水分を取りすぎる、とか、介護士さんにかまってほしくてトイレに行きたいと頻繁に要求する)言っているのではなく、高齢者ゆえの衰えからくる頻尿にさらに難病からの症状がプラスされて制御できない尿意があるためであって、決してわがままではないことを伝えたかったのです。

詳しくはこちら:大脳皮質基底核変性症|闘病記|転倒<内部リンク>

その当時にお世話になっていた施設は、簡単にいうと、ある程度健康な高齢者が自立して生活を送るのを見守ったり手助けするタイプでした。
母はトイレに行きたい気持ちに押されてひとりで何とかトイレまで行っていました。

ベッドから立ち上がり車椅子に移乗し、
ひとりで部屋を出て共用のトイレまで行き、
そして車椅子から立ち上がりトイレの便座に自分で座る、
用が終われば部屋へ戻るために逆パターンをひとりでしていました。
当然どこかのタイミングで転ぶことが何度もあり、転んでしまうと右手も右足も動かないので、ひとりで立ち上がることができず、ずっと部屋の床の冷たさを頬に感じながら涙を流し誰かに気づいてもらうのを待っていたようです。
その床の冷たさは、部屋の床だけではなく、トイレの床の冷たさのときもあったと母は泣いていました。
「頬が部屋の床(トイレの床)について汚い」ことよりも「起こしてほしい」一心だったと母は後に言っていました。

床に向けて転ぶことばかりではありません。
倒れる先に、机やベッドの角があろうが、自分で体を制御できないのでそのままの勢いで転倒していきます。
顔半分を殴打しパンパンに腫れあがったり、眼球を殴打して目が見えなくなったり、頭を殴打したことも少なくありません。
直視できないほどの顔の腫れ、変色がありました。
腫れが引くと内出血した部分が上から下に日にちをかけて降りていきます、顔が真っ黒になります。
それでも運良くというか激しい痛みを伴う打撲だけの症状で大事に至ることはありませんでした。

転倒を繰り返したため施設側から「トイレに行くときは必ずコールをしてください」と言われたものの、コールして来てくれても

さっきトイレに行ったばかりだけどまた?
水分を取らないようにしたら?
オムツにした方がいい

と母は言われていたことがありました。



水を飲むのをもっと減らすようにしてください
安定剤をもっと飲ませた方がいい
オムツをするように説得してください
カテーテルを入れる方法もある

私も施設職員から言われました。

死にたい
生きていても仕方がない
どうやったら死ねるのか教えて

母はその頃よく口にしていました。
母も私も途方にくれていました。

施設側は転倒リスクを減らすために、当然そのような提案をしていることも十分理解していましたが、

尊厳にかかわるトイレは段階を踏んで行いたい
自分でできる排泄はできる限り能力を落とさず維持していきたい

と母の気持ちを代弁して私が伝えました。

家で同居して母の面倒を私がみることを検討していたのもこの頃です。

施設で行われたミーティングに私が呼ばれ母の「問題点」の報告があり、
「薬をもっと飲ませたい」
「オムツに」
「カテーテルに」
という提案が施設側から正式にありました。

その際に、私が連れ帰る案を伝えたら



家でみることは無理です

家でみることはできない状況です、あなたが潰れます

施設側職員、同席していたケアマネから言われました。


トイレに行きたい尊厳を守るのか、転倒リスクを減らすのかどちらを選択していくべきなのか常に悩んでいましたが、
このまま施設でお世話になるのか家で介護するか、どうしていいのかさらに八方塞がりの状況でした。

それでも私ができることは「代弁者」として正確な情報を伝え続けること。
母が自分で伝えきれないことを私が聞き取って代わりに施設側に伝えたり、主治医からもらった情報を伝えたりしていくうちに、看護師さん自身がこの病気について勉強して私に情報をくださったり、職員さんたちが母の尊厳を守ってトイレにできる限り付き合ってくれたりしてくれるようになりました。
母はその施設に友達もいたので「ずっといたい」と言っていたのですが、その頃から母の病気の状態にあった施設を探すことを始めました。



他の記事はこちらから…介護記事一覧

ページトップへ戻る