大脳皮質基底核変性症と嚥下障害|膿胸・誤嚥性肺炎のリスクと家族の選択
神経難病である大脳皮質基底核変性症(CBD)は、体の動きだけでなく「飲み込む力(嚥下)」にも大きな影響を与えます。
母もこの難病と向き合う中で、発熱が続き、血液検査とレントゲンなどによって、最終的に「膿胸」と診断されました。
膿胸とは、肺を包む胸腔という空間に膿がたまる状態です。
高齢者や嚥下障害のある方にとっては、決して他人事ではありません。
この記事では、専門用語や治療の選択に戸惑いながらも、主治医(呼吸器内科)から教えてもらったことを、母の病気の経過とともに記録します。
1.膿胸の診断と治療
母は発熱が続き、検査の結果「膿胸」と診断されました。
原因は細菌感染なのか、それとも唾液などが気道に入る誤嚥によるものなのか――はっきりとは分かりませんでした。
なぜならレントゲンは明らかな誤嚥性肺炎様ではなかったからです。
膿胸の治療は、状態によって異なります。
抗菌薬(抗生物質)の投与
胸に管を入れて膿を排出する「胸腔ドレナージ」
母は緊急で胸腔ドレナージを行いました。
しかし、思うように排液できませんでした。
画像では水のように見えた部分が、実際には固まったカス状で、うまく流れ出なかったのです。
さらに次の治療としては、胸を開いて膿を除去する開胸手術があります。
でも、母の場合、全身状態からしてそれをすることは難しいと判断されました。
残されたのは抗菌薬治療のみ。
それまで発熱が続いていた段階でも抗菌薬の治療を行っていましたが、それとは別の抗菌薬による治療となりました。
その後、1週間程度の抗菌薬の投与により徐々に解熱し、炎症の指標であるCRPも低下。
レントゲンではあまり状態は変わらず、でもそれは時間をかけて自然と体に吸収されて消えていくのを待つしかないということでした。
2.誤嚥性肺炎は起こるのか、起きているのか
母の状態が落ち着いた段階で、次に行われたのが誤嚥性肺炎が起きていないか、起こるのかの検査です。
大脳皮質基底核変性症による直接的死因が「誤嚥性肺炎」であることが多いことから、現時点の状態を調べ、適切な状態作りのフェーズに入りました。
それを調べるために、今までと同じ栄養剤と同じ摂取量を胃ろうに注入。
すべて発熱前と同じ状態を作り調べます。
そうすると、誤嚥性肺炎らしき影が肺に出てきたことがレントゲン検査でわかりました。
今までなかった影が出てきたということは、胃ろうによる栄養剤注入の影響かどうかを調べることになりました。
ところで、大脳皮質基底核変性症による嚥下障害と老化による嚥下障害の違いは何だろうという疑問が浮かんできました。
主治医から教えてもらった「高齢者の死因のほとんどは誤嚥性肺炎です」という言葉です。
「大脳皮質基底核変性症が引き起こす誤嚥性肺炎は老化による誤嚥性肺炎とは異なり急性に起きること」など改めて深く知ることとなりました。
3.老化による嚥下障害との違い
高齢者の死因の多くが誤嚥性肺炎と言われます。
しかし、大脳皮質基底核変性症による嚥下障害は、単なる「老化」とは異なります。
この難病は、神経細胞に異常なたんぱく質が蓄積し、舌や喉の筋肉が強張ります。
その結果、むせずに誤嚥してしまう不顕性誤嚥が起こりやすくなります。
むせないということは、「誤嚥に気づけない」ということ。
これが大きなリスクです。
嚥下障害は、大脳皮質基底核変性症において避けて通れない問題なのだと、医師から説明を受けました。
4.胃ろうと唾液の関係――「適量」の重要性
母は胃ろうを造設しているため、口から固形物を摂っていません。
それでも誤嚥のリスクはあります。原因は「唾液」です。
そして母の状態から
胃ろうから入れた栄養剤が長時間胃に残っていた
その間、唾液の分泌が多く、長時間続いていた
現在の母の持つ嚥下機能では、その唾液量が許容量を超えている可能性があった
ということがわかってきました。
つまりこの時点での仮説なのですが「胃の中に栄養剤が長時間残っていることで唾液の分泌量が増え、それが母が現在持つ嚥下機能の許容量を超えて誤嚥に繋がっているのではないか」ということです。
そこで、栄養剤の注入量を極力減らし、様子を見る、状態が良くなったら、少しずつ量を増やしてみるを繰り返しながら、経過観察を行うという検証を行いました。
その結果
胃の中に残留物がなくなった
唾液の過剰な分泌が減少した
誤嚥性肺炎の様態が消えた
血液検査やレントゲン所見も合わせ、約3週間観察を続けました。
そして、母にとっての「適切な栄養量」を見つけることができました。
「生きるための栄養」が時として「誤嚥のリスク」を高めてしまう。
そのバランスはその人それぞれであり、進行する難病なのでそのときの正解は続かないということなのです。
今回見つけた量は運良く、1日に必要な最低カロリーを満たしていました。
その栄養が万が一足りない場合は経管栄養の追加や静脈栄養が必要になると説明を受けていましたが、現時点では胃ろうだけで良さそうな結果になりました。
胃から吸収される栄養と、血管から吸収される栄養とは大きな差があって、やっぱり「人は胃から吸収されるのが一番良いカタチだし、普段私たちと同じように本来は口から摂るのが良いのはその通り」と説明を受けました。
当たり前のことでありながら普段は忘れてしまって生活している私なので、介護をする上で改めて考えさせられることになりました。
5.今後に備える選択肢
大脳皮質基底核変性症では、今後誤嚥性肺炎を起こす可能性が高いと言われています。
現時点では、適量がわかりそれによる誤嚥性肺炎が起きていないとわかったものの、もっと進行していずれ起きる可能性があるということです。
そのため、将来的な治療法として
気管切開
喉頭気管分離術
の二つの選択肢があると説明を受けました。
どの治療を選ぶのか――
それは常に「家族」に委ねられます。
母の人生であるのに、判断を迫られるのは私です。
同じ状況になれば、きっと多くの人が経験することであり、とても苦しいことなのです。
まとめ
膿胸、誤嚥性肺炎、気管切開、喉頭気管分離術…。
介護の現場では、次々と専門用語が現れます。
その一つひとつは、
「命を守るための治療」なのか、
それとも「延命措置」なのか。
家族は常に問い続けることになります。
今回の記事では、母の膿胸と嚥下障害を通して改めて知ったことを整理しました。
次回以降に
言語聴覚士さんと1年間続けてきた嚥下リハビリの影響
誤嚥性肺炎を防ぐための「気管切開」「喉頭気管分離術」という選択
介護者である私が、主治医との対話の中でたどり着いた考え
について、さらに詳しく記録していきます。
大脳皮質基底核変性症に向き合う方や、そのご家族が、
「何が起きているのか」「どんな選択肢があるのか」を理解するための、「次の一手」を見つけるための小さな道しるべになれば幸いです。
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