大脳皮質基底核変性症介護|香りが呼び起こす、記憶のひととき(嗅覚を活かすリハビリ)




大脳皮質基底核変性症介護|香りが呼び起こす、記憶のひととき(嗅覚を活かすリハビリ)


お盆の日、父の仏壇がある母の部屋で、お線香を焚きました。
静かに目を開けていた母の様子に、ふと変化がありました。

もぞもぞ


固縮で動かしにくい体を、母は一生懸命動かそうとしていました。
大きな動きではありません。

けれど確かに、「静」から「動」へ。

その変化を見た瞬間、お線香の香りが、母の中にある何かを揺さぶったのかもしれないと思いました。

「母から発する行動」は大脳皮質基底核変性症を患う母にとってとても貴重な出来事です。
なぜなら今の母は言葉を失い、母から自分の気持ちを伝えようとする(表現しようとする)手段を失ってしまったからです。

嗅覚は、五感の中で唯一、脳の感情をつかさどる「大脳辺縁系」に直接届くといわれます。

痛みが脳に届くまで0.9秒。
それに対して、香りはわずか0.2秒。
香りを感じた瞬間、私たちは「理由より先に」感情を動かされるのだそうです。

言葉も記憶も少しずつ遠のいていってるかもしれない母にとって、香りはまだダイレクトに届く世界。

そして「香り」を起点にして、母の行動を促すことができるリハビリ。
ベッド上で寝たまま、多くの時間を過ごす母にとって、彩ある時間を持てるよう、 「香り作戦」は、確かな「刺激」になっていると感じます。

お線香の香りを通して、母は何を思い出したのでしょう。
夫を見送ったあの日か、若き日に亡くした父親のあの冬か。それとも。

確かめるすべはなくても、母の中で何かが「よみがえった」気がしました。

ここでは、嗅覚を刺激して母に彩ある時間を届る試みを記録します。



1.コーヒーの香りがつなぐ、過去と今



母はコーヒーが大好きでした。
通院時に診察が終わると、病院内にある喫茶店でコーヒーを飲むのを楽しみにしていました。

コーヒーの香りから引き出される思い出はたくさんあるに違いない。

そう思い、ある日、ドリップ式のコーヒーの粉をそっと鼻に近づけると、母の表情がふっと変わりました。
コーヒーを自分で好きな時に飲むことはできません。
けれど香りなら、いつのタイミングでも楽しめる。

あの香ばしい香りの奥に、母はどんな時間を見ていたのでしょう。
通院の帰りに、私にごちそうしてくれたコーヒー?
それとも、父と出掛けていた喫茶店でゆっくり飲んだ、コーヒー?
もしかしたら、朝の台所で自分のために淹れていた一杯かもしれません。



2.音刺激もプラスして




もし朝の一杯だとしたら、それは母が元気で、自分で精力的に何でもこなしていた時期。
母が思い出すそのコーヒーは、自分が行動していた自分の目に映るコーヒー。
だから私はたまに、ドリップする音も一緒に聴かせています。

ぽこぽことお湯が粉に染み込む音、ポタポタとコーヒーが落ちる音に、母の目がキョロキョロと動く。

音も加わると、臨場感が出ます。
簡易台所の完成です。

もぞもぞ。体が動く。
その瞬間、母はきっと「いつもの朝」にタイムスリップしているのだと思います。

まとめ



もしそうならー

今このベッドの上でも、母の心の中には、コーヒーを淹れる自分がいる。
私の目には「もぞもぞ」している母が見えるのですが、母のその手や体は自由に動いて、コーヒーを淹れているのかもしれません。

母に残された五感のうち、嗅覚と聴覚を使って、タイムスリップが簡単にできるのなら、
リハビリでもある上に、ベッド上で過ごしていても、彩ある時間になったのではないか

私の自己満足かもしれませんが、それでも母の穏やかそうな顔をみると、また「台所」や「喫茶店」を母の部屋に再現したいと思います。




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